平家物語の冒頭は、最近は小学校で古文も教えているので必ず出てくる有名な一節だ。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
琵琶法師が語ったと言われている。今でいうラップのようなものだろうか。音楽に重要なのはメロディとリズムである。「諸行無常の響きあり」を声に出して読んでみれば、その読みやすさとノリの良さに驚く。
ところがこの一節の中で非常な違和感がないだろうか。リズミカルに声に出して読んでみれば分かる。「盛者必衰の理をあらはす」の所だ。
基本的に日本の歌、和歌や短歌は四拍子である。五・七・五はそのまま読むのではなく、間合いを追加して八・八・八で読む。平家物語もそうだが、この場合は先頭に間合いを入れた方が美しい。
○・ぎ・お・ん・しょ・う・じゃ・の
か・ね・の・こ・え・○・○・○
○・しょ・ぎょ・う・む・じょ・う・の
ひ・び・き・あ・り・○・○・○
○・○・さ・ら・そ・う・じゅ・の
は・な・の・い・ろ・○・○・○
○は無音で、このようにすれば8ビートのロックのリズムでも読めてしまう。
ところが次の「盛者必衰の理をあらはす」が読めない。
文字数が多すぎるし語呂も悪い。KANA-BOON というバンドが「盛者必衰の理、お断り」という歌の中でこの一節を使っているのだが、この箇所に非常に苦労しているのが分かる。「盛者必衰の理」で終わっていればまだ何とかなるのだが。
とある掲示板に自称東大受験生があまりに不合理な質問をしていたので、「盛者必衰の理」は知ってるだろとコメントした。理学部に行くつもりなら理ということを理解できる頭を持て。では「理」というのは何かという話になるのでこの一節を引用したわけだが、実はそれが音韻上はあまりにも非合理的なのである。